理研プレスリリース / お知らせ

「富岳」を用いた30秒ごとに更新するリアルタイム数値天気予報の研究成果が2023年ゴードン・ベル賞気候モデリング部門ファイナリストに選出

2023年9月22日 / 2023年11月9日

3次元的な降水分布の予測図

図: 2021年7月30日13時18分00秒(日本時間)を初期時刻とする15分先の3次元的な降水分布の予測。(国土地理院による地図データを使用)

計算科学研究センター(R-CCS)データ同化研究チーム 三好建正チームリーダー、複合系気候科学研究チーム 富田浩文チームリーダーらの共同研究グループによる、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた東京オリンピック・パラリンピック期間中に実施した、30秒ごとに更新するリアルタイム数値天気予報の研究成果が、米国計算機学会のゴードン・ベル賞の気候モデリング部門の最終候補 (ファイナリスト)に選出されました。ゴードン・ベル賞は、高性能並列計算を用いた科学・技術分野の研究の中で、その年に最も顕著な成果を上げた研究グループに与えられる賞です。ゴードン・ベル賞気候モデリング部門は、気候モデリング分野および、より広い社会に与える影響とその可能性に基づいて候補が選ばれ、地球規模の気候危機の解決に向けた革新的な並列コンピューティングの貢献を表彰することを目的としています。

極端現象の制御シミュレーション実験 -極端気象制御に向けた新理論-

2023年6月19日

極端現象を防ぐ制御シミュレーション実験

図 極端現象を防ぐ制御シミュレーション実験

理化学研究所(理研)計算科学研究センター データ同化研究チームの三好 建正 チームリーダー(開拓研究本部 三好予測科学研究室 主任研究員、数理創造プログラム 副プログラムディレクター)、キウェン・ソン 大学院生リサーチ・アソシエイト(研究当時)、名古屋大学のセルジュ・リシャール 教授の共同研究チームは、低次元の理想実験により、極端な大雨や高温などの極端現象の発生を防ぐ制御可能性を明らかにしました。

本研究成果は、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し、極端風水害の脅威を軽減するための理論研究の発展に貢献すると期待できます。

今回、共同研究チームは、簡単なカオス力学系として知られるローレンツ40変数モデルを使って、制御シミュレーション実験(Control Simulation Experiment; CSE)を実行し、当該モデルにおける極端現象の発生を防ぐ制御可能性を明らかにしました。ローレンツ40変数モデルは、地球上の緯度が一定の円上に40個の点を並べ、その各点上の気象、例えば気圧や気温、風速、降水などを模したものと考えられます。それぞれの点での値は、刻々と上下に変動します。この値が1年に2度の割合で大きな値を示す極端現象に対し、微小な制御入力を与えることで、この極端現象の発生を防ぐことに成功しました。今後、ローレンツ40変数モデルの代わりに実際の気象モデルを使うことで、極端な大雨や高温などの極端気象の制御可能性研究への扉が開かれます。

本研究は、科学雑誌「Nonlinear Processes in Geophysics」オンライン版(6月19日付:日本時間6月19日)に掲載され、6月18-22日にイタリア・ローマで開催される第3回国際非線形動力学会議(NODYCON2023)の冒頭のキーノート講演(6月19日)にて発表されました。

トンガ海底火山噴火のラム波を鮮明に可視化 -ひまわり8号が捉えた波の全貌-

2022年5月9日

2022年1月15日18時の解析画像

図 日本時間2022年1月15日18時の解析画像(赤は海岸線・緯線・経線を示す)

理化学研究所計算科学研究センター・データ同化研究チームの三好建正チームリーダー(開拓研究本部三好予測科学研究室主任研究員、数理創造プログラム副プログラムディレクター)、大塚成徳研究員(開拓研究本部三好予測科学研究室研究員、数理創造プログラム研究員)の研究チームは、気象気象衛星ひまわり8号の画像を用いて、2022年1月に発生したトンガの海底火山噴火に伴う音波の一種である「ラム波」を鮮明に可視化する手法を独自に開発しました。さらに、この画像からラム波を自動抽出する手法を開発し、到達時刻分布や地上気圧観測との関係を明らかにしました。

本研究成果は、火山噴火などに伴う大気波動やそれに伴う潮位変動の科学的理解と実況監視、観測データと大気・海洋の大規模計算との融合によるシミュレーションの高度化や将来的な予測手法の開発に貢献すると期待できます。

今回、研究チームは、データ同化研究チームによるひまわり8号を用いたこれまでの天気予報研究の知見を生かし、トンガの海底火山噴火に伴う大気波動に関する即応研究に取り組みました。10分ごとに得られるひまわり8号の画像の差分を作成し、さらにその差分を作成することで、約310m/sで伝わるラム波が1週間にわたって地球を5周する様子を示しました。さらに、この画像からラム波を自動抽出することで、西太平洋からインド洋東部にかけての第一波の到達時刻を面的に明らかにしました。この衛星画像の解析結果は、日本で観測された気圧変動とよく一致しました。

本研究は、オンライン科学雑誌「Geophysical Research Letters」(4月15日付)に掲載されました。

制御シミュレーション実験 -気象制御に向けた新理論-

2022年3月28日

ローレンツ3変数モデルの軌道の3次元プロット図

図 ローレンツ3変数モデルの軌道の3次元プロット

  • 左: 制御入力がなく、左右ニつのレジームを遷移する軌道を示す。
  • 右: 制御入力によってレジーム遷移を防ぎ、右のレジームに軌道がトラップされている。

理化学研究所計算科学研究センター・データ同化研究チームの三好建正チームリーダー(開拓研究本部三好予測科学研究室主任研究員、数理創造プログラム副プログラムディレクター)、キウェン・ソン大学院生リサーチ・アソシエイトの研究チームは、気象制御に向けた制御シミュレーション実験の新理論を考案しました。

本研究成果は、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し、極端風水害の脅威を軽減するための理論研究の発展に貢献すると期待できます。

今回、研究チームは、簡単なカオス力学系として知られるローレンツ3変数モデルを使って、制御シミュレーション実験(Control Simulation Experiment;CSE)を考案・実行し、当該モデルにおける制御可能性を明らかにしました。ローレンツ3変数モデルは右側と左側の二つのレジームを持ち、時間の経過に伴って左右を交互に行き来します。いつレジーム遷移が起こるかは、カオス性により予測可能性に限界があります。CSEでは、微小な制御入力を与えることでレジーム遷移を防ぐことに成功しました。ローレンツ3変数モデルの代わりに実際の気象モデルを使うことで、これまでの気象の予測可能性研究から、新たに制御可能性研究への扉が開かれます。

本研究は、科学雑誌「Nonlinear Processes in Geophysics」オンライン版(3月28日付:日本時間3月28日)に掲載されました。

シミュレーションで線状降水帯の豪雨予測精度を改善 -もしも最新鋭気象レーダで九州全土を覆えたら-

2022年3月7日

観測システムシミュレーション実験結果図

図 2020年7月4日午前4時(日本時間)を初期時刻とした1時間先の雨粒量の水平分布

  1. 線状降水帯をうまく再現しないシミュレーション結果(NO-DA)。
  2. 通常用いられる気象レーダによる5分ごとの観測データを用いた実験(5MIN)。予測は改善されなかった。
  3. フェーズドアレイ気象レーダによる30秒ごとの観測データを用いた実験(30SEC)。予測が改善された。
  4. 本研究における正解データ。赤・紫になるほど強い雨を表す。

理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー(開拓研究本部三好予測科学研究室主任研究員、数理創造プログラム副プログラムディレクター)、前島康光特別研究員らの共同研究チームは、 2020年7月に豪雨をもたらした線状降水帯の予測に対し、最新鋭のフェーズドアレイ気象レーダを仮想的に九州全土に展開した場合の有用性を評価し、線状降水帯による豪雨発生の予測精度を大きく改善できることを示しました。

本研究成果は、地球規模の温暖化により脅威を増す線状降水帯の予測精度の向上や、被害の軽減に向けた新しい予測技術や観測システムの提案につながると期待できます。

広範囲にわたり次々と積乱雲が発生する線状降水帯による豪雨に備えるには、観測を強化し、得られるデータを高度に活用する予測技術を開発することで、シミュレーションによる気象予測を向上させることが重要です。 このために、仮想の観測システムをシミュレーションして数値天気予報への有効性を評価する研究手法を「観測システムシミュレーション実験(OSSE)」と呼びます。

今回、共同研究チームは、スーパーコンピュータ「富岳」を使ってOSSEを行いました。具体的には、2020年7月に豪雨をもたらした線状降水帯周辺の大気状態を数値化し、 九州全土に最新鋭のフェーズドアレイ気象レーダを仮想的に展開した場合の観測データをシミュレーションしました。その結果、フェーズドアレイ気象レーダによって30秒ごとにすき間なく雨雲の立体構造を捉えることで、 線状降水帯の豪雨の予測精度を大きく改善できることを定量的に確認しました。

本研究は、科学雑誌「SOLA」(3月7日付)に掲載されました。

毎日更新する新型コロナウイルス感染症の感染予測 -天気予報のデータ同化手法を応用-

2021年9月14日

予測シナリオの図

全国を対象とした2021/9/12までのデータを用いて予測される、入院治療などを要する人の数の推移(信頼区間68%)。黒はデータ同化解析値、緑、青、赤、橙はそれぞれA1、A2、A3、A4の予測シナリオを示す。

理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、キウェン・ソン大学院生リサーチ・アソシエイト、 名古屋大学大学院多元数理科学研究科のセルジュ・リシャール特任教授らの共同研究グループは、毎日得られる最新のデータを生かした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予測を開始しました。

本研究は、COVID-19感染拡大の兆候を早期に捉えることで、感染拡大の防止に役立て、予測される感染拡大に事前に備えるための対応計画の策定などに貢献すると期待できます。

共同研究グループは、コンピュータを使った天気予報の要となるデータ同化[1]の方法をCOVID-19感染予測に応用しました。予測に重要となる、1人の感染者が何人に感染させたかを表す「実効再生産数」は直接知ることができませんが、 データ同化によって、これまでのその推移を推定しました。その結果、過去3回の緊急事態宣言等による感染抑制効果を確認しました。 また、これらに対応する予測シナリオ(1回目:A1、2回目:A2、3回目:A3)、および感染抑制がなされない場合の予測シナリオ(A4)について、それぞれ今後の感染の推移を予測します。 随時システムの改良を行い、予測対象領域を拡大していきます。

「富岳」を使ったゲリラ豪雨予報 -首都圏で30秒ごとに更新するリアルタイム実証実験を開始-

2021年7月13日

今回の実証実験で表示される「3D雨雲ウォッチ」アプリイメージ

今回の実証実験で表示される「3D雨雲ウォッチ」アプリイメージ

理化学研究所(理研)計算科学研究センター データ同化研究チームの三好建正チームリーダー、雨宮新特別研究員、運用技術部門システム運転技術ユニットの宇野篤也ユニットリーダー、 情報・システム研究機構 国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系の石川裕教授、情報通信研究機構 電磁波研究所電磁波伝搬研究センター リモートセンシング研究室の佐藤晋介総括研究員、 大阪大学大学院工学研究科の牛尾知雄教授、株式会社エムティーアイ ライフ事業部気象サービス部の小池佳奈部長らの共同研究グループは、2021年7月20日から8月8日までと8月24日から9月5日までの期間、 スーパーコンピュータ「富岳」[1]を使い、首都圏において30秒ごとに更新する30分後までの超高速高性能降水予報のリアルタイム実証実験を行います。

本研究は、近年増大する突発的なゲリラ豪雨[2]などの降水リスクに対して、「富岳」上の仮想世界と現実世界をリアルタイムにリンクさせることで、「富岳」の高度な利用可能性を切り拓き、 超スマート社会Society 5.0[3]の実現に貢献するものと期待できます。

共同研究グループは2020年に、さいたま市に設置されている情報通信研究機構が運用する最新鋭のマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)[4]による30秒ごとの雨雲の詳細な観測データと、 筑波大学と東京大学が共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)のスーパーコンピュータOakforest-PACS[5]を用いて、首都圏において30秒ごとに新しいデータを取り込んで更新し、30分後までを予測する実証実験を行いました。

今回は、2021年3月に共用を開始した「富岳」を使うことで、前年よりも20倍大きな1,000通りのアンサンブル計算[6]を行います。また、システム全体を改良し、30秒ごとに更新する解像度500mの気象予測をリアルタイムで行います。 このリアルタイム予報は世界唯一の取り組みで、研究に着手した2013年10月以降のさまざまな成果の集大成です。さらに、「富岳」のリアルタイム利用は初めての試みで、超スマート社会Society 5.0の実現に向け、「富岳」の新しい活用方法を切り拓きます。

実証実験で得る予報データは、気象業務法に基づく予報業務許可のもと、理研の天気予報研究のウェブページ新規タブで開きますおよび株式会社エムティーアイのスマートフォンアプリ「3D雨雲ウォッチ」新規タブで開きますで7月20日正午から公開します。

ただし、この予報は試験的に行うものであり、実用に供する気象予報に十分な精度や安定した配信環境が保証されたものではなく、利用者の安全や利益に関わる意思決定のための利用には適したものではありません。

台風の強風予測を改善 -もしも静止気象レーダ衛星があったら-

2021年7月7日

静止気象レーダ衛星によるレーダ反射強度データ(dBZ)のシミュレーション結果

左はシミュレーションによる正解データ、中央はオーバーサンプリングしない場合の観測データ、右はオーバーサンプリングした場合の2015年8月5日0000 UTC(日本時間午前9時)の 観測データを示す。オーバーサンプリングにより、より細かい構造が捉えられた。

理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、ジェームズ・テイラー特別研究員、 宇宙航空研究開発機構地球観測研究センターの久保田拓志研究領域主幹、弘前大学大学院理工学研究科の岡﨑淳史助教らの国際共同研究グループは、 静止気象レーダ衛星の有効性を示す研究を実施してきました。熱帯降雨観測衛星搭載降雨レーダ(TRMM/PR[1]; 1997年11月打上げ)およびGPM主衛星[2] 搭載二周波降水レーダ(GPM/DPR[3]; 2014年2月打上げ)で培った、日本が保有する世界で唯一の衛星降水レーダ技術により、宇宙から台風の内部構造を 観測することができます。本研究では、それを発展させるミッションとして、仮想的に30メートル四方のレーダアンテナを静止衛星[4]に搭載して常時 観測した場合の有用性を評価し、台風による強風の予報が改善されることを新たに示しました。

大雨や強風などに備えるには、高精度の気象予測が有効です。そのためには、観測を強化し、得られるデータを高度に活用して、シミュレーションによる 気象予測を向上させることが重要です。予測向上にどのような観測がどの程度有効であるかを事前に評価できれば、効果的な観測システムの設計に役立ちます。 特に、人工衛星は開発や運用に大きな費用がかかるため、そのデータの有効性を事前に評価し、設計に役立てることは極めて有益です。

このような目的で、仮想の観測システムをシミュレーションして数値天気予報への有効性を評価する研究手法を「観測システムシミュレーション実験(OSSE)[5]」 と呼びます。本研究では、このOSSEの手法を活用することで、静止気象衛星に気象レーダを搭載した新しい観測システムの有効性を検討しました。

今回、国際共同研究グループは、スーパーコンピュータ「京」[6]およびスーパーコンピュータOakforest-PACS[7]を使ってOSSEを実施しました。具体的には、 まず2015年で最強の台風第13号(アジア名Soudelor)の大気状態を数値化しました。次に、周回衛星用(TRMM/PRやGPM/DPR)の衛星データ・シミュレータを 静止衛星用に改良・発展させ、静止気象レーダ衛星から観測した場合のデータをシミュレーションしました。その結果、静止気象衛星に気象レーダを搭載することで、 台風による強風の予測が改善できることを定量的に確認しました。本研究成果により、静止軌道から降水を常時観測することの有用性が明らかになり、地球規模の 温暖化により脅威を増す台風の予測精度向上や被害軽減に向けた新しい衛星観測システムの提案に繋がるものと期待できます。

本研究は、科学雑誌『Journal of Advances in Modeling Earth Systems』オンライン版(7月6日付:日本時間7月7日)に掲載されます。

ひとつひとつの観測データが気象予測に与える影響を簡易に評価可能に -北極の観測データは7日先の北米気象予測の改善に貢献することも明らかに-

2021年4月30日


国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)付加価値情報創生部門 アプリケーションラボの山崎哲研究員は、 理化学研究所計算科学研究センター 三好建正チームリーダー、国立極地研究所、京都大学防災科学研究所と共同で、個々の観測がどのくらい気象予測の 精度を改善するか診断する手法(EFSO)を評価した結果、有効な手法であることを確認するとともに、北極の観測データは北米の6〜7日先の予測を改善する ことも明らかにしました。

気象予測は陸上での観測の他に衛星観測や洋上観測等から得られたデータをもとにシミュレーションされています。予測精度を向上させるためには、ひとつひとつの 観測が予測へどの程度影響を与えているか(以下、本影響を「観測インパクト」という。)評価することが重要ですが、膨大な計算コストを要することからあまり 行われていませんでした。そこで本研究グループは、EFSOと呼ばれる手法をJAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」上に実装し、一例としてEFSOが 北半球の陸上で実施されたラジオゾンデによる観測インパクトを正しく推定しているかを検討しました。

その結果、EFSOは2日先までの観測インパクトの大きさを良く推定していることが示されました。特に北極の観測インパクトに限定すると、中緯度北米域の6〜7日先の 予測を改善することもわかりました。

今後、過去にどこで行われた観測が大きな観測インパクトを持っているかを検証することで、効果的な観測計画の立案等に役立てることができると期待されます。

詳細は海洋研究開発機構のホームページをご覧ください。

スーパーコンピュータ「富岳」を利用した史上最大規模の気象計算を実現 -スパコン×シミュレーション×データ科学の協働が切り開く未来の気象予報-

2020年11月20日


国立研究開発法人国立環境研究所、国立研究開発法人理化学研究所、富士通株式会社、株式会社メトロ、国立大学法人東京大学の研究グループは、 神戸市の理化学研究所計算科学研究センターに設置されたスーパーコンピュータ「富岳」を用いて、水平3.5kmメッシュかつ1024個のアンサンブルという、 過去に例を見ないほど大規模な全球気象シミュレーションとデータ同化の複合計算を実現しました。本研究が行った計算の規模は、世界の気象機関が日々 行っている気象予測のためのアンサンブルデータ同化計算と比較して、およそ500倍の大きさのものです。この成果は「富岳」の高い総合性能を実証し、 最新のスーパーコンピュータとシミュレーションモデル、そしてデータ同化システムが互いに協調しながら開発を進めることによって、今よりも更に大規模な 気象予報システムが実現可能であることを指し示しました。これにより、将来の気象予報・気候変動予測の精度向上に繋がることが期待されます。

本研究は、計算科学において最も栄誉ある賞のひとつであるゴードン・ベル賞のファイナリストに選出され、2020年11月9日から19日の日程でオンライン開催された スーパーコンピュータの国際学会SC20において内容に関する講演が行われました。ゴードン・ベル賞は国際的な計算機科学の学会であるACMとIEEE Computer Societyが 共同で主催し、その年において、高性能並列計算を科学技術分野へ適用することに関してイノベーションの功績が最も顕著な研究に与えられます。

詳細は国立環境研究所のホームページをご覧ください。

30秒ごとに更新するゲリラ豪雨予報 -首都圏でのリアルタイム実証実験を開始-

2020年8月21日


理化学研究所(理研) 計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、情報通信研究機構 電磁波研究所リモートセンシング研究室の佐藤晋介研究マネージャー、 大阪大学 大学院工学研究科の牛尾知雄教授、株式会社エムティーアイ ライフ事業部気象サービス部の小池佳奈部長、筑波大学 計算科学研究センターの朴泰祐教授、 東京大学 情報基盤センターの中島研吾教授らの共同研究グループは、2020年8月25日から9月5日まで、首都圏において30秒ごとに更新する30分後までの超高速降水予報のリアルタイム実証実験を行います。

本研究成果は、近年増大する突発的なゲリラ豪雨などの降水リスクに対して、コンピュータ上の仮想世界と現実世界をリンクさせることで、超スマート社会Society 5.0の実現に貢献すると 期待できます。

共同研究グループは、2016年にスーパーコンピュータ「京」とフェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)を生かした「ゲリラ豪雨予測手法」を開発しました注1)。今回、この手法を高度化し、 さいたま市に設置されている情報通信研究機構が運用する最新鋭のマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)による30秒ごとの雨雲の詳細な観測データと、筑波大学と東京大学が 共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)のスーパーコンピュータOakforest-PACSを用いて、リアルタイムで30秒ごとに新しいデータを取り込んで更新し、30分後まで予測する超高速降水予報 システムを開発しました。この予測データを、理研の天気予報研究のウェブページでは30秒ごとに分割して連続的に表示します。これまでの天気予報と比べて桁違いに速い速度で更新することにより、 わずか数分の間に急激に発達するゲリラ豪雨を予測できます。このリアルタイム予報は世界初かつ唯一の取り組みで、研究開発に着手した2013年10月から継続してきたさまざまな成果の集大成です。

実証実験で得る予報データは、気象業務法に基づく予報業務許可のもと、理研の天気予報研究のウェブページ(理研天気予報研究新規タブで開きます)および株式会社エムティーアイのスマートフォンアプリ 「3D雨雲ウォッチ新規タブで開きます」で8月25日午後2時から公開します。

ただし、この予報は試験的に行うものであり、実用に供する気象予報に十分な精度や安定した配信環境が保証されたものではなく、利用者の安全や利益に関わる意思決定のための利用には適したものではありません。

衛星データと計算による世界の降水予報 -理研とJAXAのwebで5日後までのリアルタイム降水予報を公開-

2020年8月20日

降水ナウキャストと数値天気予報を統合した高精度降水予測の全球分布図

2020年7月5日22時を初期時刻とした3時間後の降水予測値の分布を表示している。

理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、千葉大学環境リモートセンシング研究センターの小槻峻司准教授、 東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)第一宇宙技術部門地球観測研究センターの久保田拓志主任研究開発員らの国際共同研究グループは、 人工衛星による世界の降水観測データ(JAXAの全球衛星降水マップ(GSMaP))を生かした5日後までのリアルタイム降水予報を、理研の天気予報研究のウェブページ 理研天気予報研究新規タブで 開きますおよびJAXAの降水情報ウェブページ「GSMaPxNEXRA 全球降水予報」新規タブで開きますで8月20日から公開します。

国際共同研究グループは、JAXA地球観測研究公募などで衛星降水データを用いた地球全体を領域とする降水予測研究を行ってきました。今回、降水予測の高度化を目指し、 降水ナウキャストと数値天気予報という二つの異なる予測手法に基づいた全球降水予測システムを開発しました。 さらに、この二つの予測データを統合する新たな手法を開発し、これらをリアルタイムに継続運用することで、5日後までの世界各地の降水予報を実現しました。 この予報は、従来の天気予報では活用されてこなかった人工衛星による降水観測データを直接利用するもので、研究開発に着手した2013年4月以降得てきたさまざまな成果を統合した集大成となります。 人工衛星による降水観測データを利用することで、地上に設置する雨量計やレーダーなどの降水観測が限られている地域を中心に、地球規模で増大している大雨や渇水などの予測情報としての活用が期待されます。 今後、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて降水予報の更なる高度化に取り組みます。

10分ごとに更新する気象予測 -「京」と気象衛星ひまわり8号による天気予報の革新-

2018年1月18日

同化システム内および実際のひまわり8号赤外輝度温度観測

左はひまわり8号データ同化なし、中央はひまわり8号データ同化あり、右は実際のひまわり8号観測を示す。 ひまわり8号赤外輝度観測のデータ同化によって、実際に観測された台風の詳細な構造を再現できたことが分かる。

理化学研究所(理研)計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正チームリーダーと本田匠特別研究員、気象庁気象研究所の岡本幸三室長らの共同研究グループは、 スーパーコンピュータ「京」と気象衛星ひまわり8号による観測ビッグデータを用いて10分ごとに更新する気象予測手法を開発し、台風や集中豪雨、それに伴う洪水の予測への有効性を確認しました。

2015年7月7日に運用が開始された静止気象衛星ひまわり8号は、従来の衛星ひまわり7号の約50倍のビッグデータを生み出す高性能センサを搭載し、10分ごとに丸い地球全体を撮像します。 これまで、静止気象衛星から観測される赤外放射輝度データを、雲の領域(雲域)も含めた全天候で数値天気予報に直接利用することは、困難でした。 このため、気象庁など世界の現業の天気予報センターの数値天気予報システムでは、連続する雲画像から雲の動きを追跡して推定する風向・風速や、 雲域を除く晴天域の赤外放射輝度データの利用が主に行われてきました。

今回、共同研究グループは、ひまわり8号の10分ごとの赤外放射輝度データを、雲域も含めた全天候で数値天気予報に直接利用することに成功し、その有効性を実証しました。 ひまわり8号赤外輝度観測の「データ同化」により、2015年最強の台風第13号(Soudelor)の急発達の予測が大幅に改善したほか、 2015年9月関東・東北豪雨の雨量予測が改善し、その結果、鬼怒川の流量の予測も改善しました。 豪雨による洪水や土砂崩れなどの災害リスクを一刻も早く捉えるには、刻々と得られるデータを取り込んだ精度の高い天気予報が有効です。 ひまわり8号の高性能センサによる10分ごとのビッグデータを生かすことで、これまで1時間ごとに更新されていた気象予測が、10分ごとに更新できるようになります。

本成果は今後、10分ごとに刻々と得られる新しい予測データを有効に活用するための防災体制などの技術的・社会的課題を解決することで、 豪雨や洪水のリスクを一刻も早く捉え、将来の天気予報に革新をもたらすと期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Monthly Weather Review』(2018年1月号)および『Journal of Geophysical Research - Atmospheres』(2018年1月号)に掲載に先立ち、 オンライン版(1月17日付け:日本時間1月18日)に掲載されます。

なお、本研究は、HPCI一般課題「ゲリラ豪雨予測を目指した「ビッグデータ同化」の研究(課題番号:hp150019、hp160162、hp170178)」、 文部科学省フラッグシップ2020プロジェクト(ポスト「京」の開発)「ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題」における 重点課題④「観測ビッグデータを活用した気象と地球環境予測の高度化(課題番号:hp160229、hp170246)」(課題責任者:海洋研究開発機構・高橋桂子) および京高度化枠「データ解析とシミュレーションの融合研究のための共通基盤的研究開発(課題番号:ra000015)」として、 JST戦略的創造研究推進事業(CREST)「科学的発見・社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出・高度化」(研究総括:田中譲)における 研究課題「「ビッグデータ同化」の技術革新の創出によるゲリラ豪雨予測の実証」(研究代表者:三好建正)、 「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川優)における 研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」(研究代表者:松岡聡) および公益財団法人計算科学振興財団研究教育拠点(COE)形成推進事業における研究課題「複数の災害リスク評価に基づく都市計画に資する計算科学研究」(研究代表者:富田浩文)の支援を受けて行われました。

30秒更新10分後までの超高速降水予報を開始 -最新鋭気象レーダを活用したリアルタイム実証-

2017年7月4日

2017年5月10日関西地方の降水に関して、午後4時45分13秒に予報された10分間の降水分布。

理化学研究所(理研)計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正チームリーダーと情報通信研究機構電磁波研究所の佐藤晋介研究マネージャー、 首都大学東京大学院システムデザイン研究科の牛尾知雄教授(大阪大学大学院工学研究科 招へい教授)らの国際共同研究グループは、 最新鋭気象レーダを生かした「3D降水ナウキャスト手法」を開発し、30秒毎に更新する10分後までの降水予報のリアルタイム実証を7月3日に開始しました。

降水分布の予測手法として、気象レーダが捉える降水パターンの動きを追跡し、将来もそのまま動き続けると仮定して予測する「降水ナウキャスト手法」が知られています。 この手法は、シミュレーションと比べて計算量が大幅に少ないのが利点ですが、予測精度が急速に低下するという欠点があります。 また平面上の降水パターンを追跡するもので、雨粒の鉛直方向の動きを考慮しないものでした。

そこで、国際共同研究グループは、30秒毎という高頻度で60km遠方までの雨粒を隙間なくスキャンする最新鋭の「フェーズドアレイ気象レーダ」のビッグデータを降水予報に生かすため、 観測された雨粒の立体的な動きを捉え、将来もそのまま動き続けるという仮定の下で予測する「3D降水ナウキャスト手法」を開発しました。 今回、大阪大学に設置されたフェーズドアレイ気象レーダのデータを用いて、リアルタイムに予測を実行するシステムを構築し、 世界初となる30秒更新10分後までの降水予報のリアルタイム実証を開始しました。 この降水予報は、気象業務法に基づき、理研がインターネット上で可能な限り発表します。

ゲリラ豪雨は、わずか10分の間に急激に川の水位を上昇させるなど、数分の対応の遅れが致命的になることがあります。 10分後までという短時間の予測情報であっても、適切に利用されれば、生活や防災等に役立てられるものと期待できます。

また本成果とは別に、三好チームリーダーらは2016年、スーパーコンピュータ「京」とフェーズドアレイ気象レーダを生かした「ゲリラ豪雨」予測手法を開発し、 リアルタイムではありませんが30分後までの高精細なゲリラ豪雨の予測にも成功しています。 これらの技術を生かすことで、将来、これまで想像もつかなかったような超高速かつ超高精細な天気予報が可能になると期待されます。

3D降水ナウキャスト手法に関しては、アメリカ気象学会による科学雑誌『Weather and Forecasting』(2016年2月号)に掲載され、 いくつかの実験結果が米国IEEEによる科学雑誌『Proceedings of the IEEE』(2016年11月号)に掲載されました。

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「科学的発見・社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出・高度化」研究領域(略称:CRESTビッグデータ応用、研究総括:田中譲・北海道大学名誉教授)における研究課題「「ビッグデータ同化」の技術革新の創出によるゲリラ豪雨予測の実証」(研究代表者:三好建正)の支援を受けて行われました。

持続可能性のモデリング -自然と人間の双方向カップリングの必要性-

2017年3月13日

自然と人間を双方向にカップリングした単純化したシミュレーション

自然と人間を双方向にカップリングした単純化したシミュレーションモデルによる、貧富の格差が進んだ社会の時系列。
緑は自然資源量、黄は環境収容力、灰は蓄積した富の総量、青は一般人口、赤は富裕人口を表す。
左: 自然を食い潰すシナリオ(500年間)で、自然資源を使って富をため込み続け、自然資源量が枯渇した後も蓄えた富を使って人口は増え続けて、蓄えが尽きた後に破滅を迎える。
右: 自然が残るシナリオ(1,000年間)で、自然資源を使って富をため込むが、富裕人口が急激に増えることで、蓄えた富を食い潰す一方、自然が回復していく。
(Motesharrei et al. 2017のFig. 5より転載)

理化学研究所(理研)計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正チームリーダー、メリーランド大学のサファ・モテシャレイ研究員、イウゲニア・カルネイ教授、 地球環境・社会研究所のホルヘ・リバス氏らの国際共同研究グループは、 持続可能性を研究するためのシミュレーションにおいて、「自然と人間を双方向にカップリングしたモデリング」が必須であることを発見しました。

気候変動など地球環境予測に使われる地球システムモデルでは、人間活動の効果は外部強制力として与えられています。 しかし、エルニーニョ現象が大気海洋間の双方向カップリングを考慮して初めて地球システムの内部変動としてシミュレーションできたことを考えると、 地球の自然システムと人間活動の双方向カップリングは、人間を含む地球システム全体を理解するのに必須であるといえます。 人間が自然に与える影響は、産業革命、緑の革命の二つの時期にレジームシフトがみられ、加速度的に増大してきました。 その結果、今や人間活動の影響は地球規模にまで拡大し、人間活動が地球のダイナミクスに直接影響を与えるようになってきました。 このような時代になった今こそ、「自然と人間を双方向にカップリングしたモデリング」が必要になります。

今回、国際共同研究グループは、自然と人間を双方向にカップリングした単純なシミュレーションモデルにより、貧富の格差が進んだ社会では人類の滅亡が予想され、 「自然を食い潰すシナリオ」と「自然が残るシナリオ」が得られることを示しました。またこのモデルを使うと、手遅れになる前に貧富の格差を縮小させたり、 出生率を抑えて人口をコントロールしたりすることで、破滅を防ぎ自然と共生する持続可能な道を歩むことができるという結果も得られます。 自然と人間を双方向にカップリングしたモデリングにより、人口増加、所得・消費格差、環境汚染などの社会問題に、人間社会の政策などが表立って考慮されるようになり、 持続可能な未来社会について、シミュレーション科学によって直接取り組めるようになります。

本研究は、オックスフォード大学出版による科学雑誌『National Science Review』(2016年12月号)に掲載されました。

「京」と最新鋭気象レーダを生かしたゲリラ豪雨予測 -「ビッグデータ同化」を実現、天気予報革命へ-

2016年8月9日

2014年9月11日午前8時25分の神戸市付近における雨雲の分布。
左上:フェーズドアレイ気象レーダの実測データ。
左下:データ同化をしないシミュレーションの結果。
右上:解像度100mの「ビッグデータ同化」によるシミュレーション結果。
右下:解像度1kmのデータ同化によるシミュレーション結果。
右上の解像度100mの「ビッグデータ同化」によるシミュレーション結果は、左上の観測データをよく再現している。
右下の1kmのデータ同化によるシミュレーション結果は、観測データが表す雨雲の内部構造を詳細に表すには不十分である。
左下は30秒ごとの観測データを同化しない場合を示し、観測データに対応する雨雲が現れない。
なお、強い雨ほど赤く示している。

理化学研究所(理研)計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正チームリーダーと情報通信研究機構、大阪大学らの国際共同研究グループは、 スーパーコンピュータ「京」と最新鋭気象レーダを生かした「ゲリラ豪雨予測手法」を開発しました。

スーパーコンピュータを使った天気予報シミュレーションは、通常1kmより粗い解像度で、1時間ごとに新しい観測データを取り込んで更新します。 しかし、ゲリラ豪雨の場合、わずか数分の間に積乱雲が急激に発生・発達するため、1時間の更新間隔では予測が困難でした。 また、1kmより粗い解像度では、ゲリラ豪雨を引き起こす積乱雲を十分に解像できませんでした。

国際共同研究グループは、今回、理研の「京」と、情報通信研究機構と大阪大学らが開発した最新鋭のフェーズドアレイ気象レーダの双方から得られる高速かつ膨大なデータを組み合わせることで、 解像度100mで30秒ごとに新しい観測データを取り込んで更新する、空間的・時間的に桁違いの天気予報シミュレーションを実現し、実際のゲリラ豪雨の動きを詳細に再現することに成功しました。

天気予報の根幹をなすのは、シミュレーションと実測データを組み合わせる「データ同化」と呼ばれる手法です。 次世代の高精細シミュレーションと高性能センサを組み合わせる革新的な技術により、従来とは桁違いのビッグデータを生かす「ビッグデータ同化」を実現しました。 解像度100mで30秒ごとという桁違いなデータを生かすデータ同化は本研究が初めてです。 この技術を生かすことで、将来、これまで想像もつかなかったような超高速かつ超高精細な天気予報が可能になり、天気予報に革命をもたらすことが期待できます。

本研究成果は、8月末に米国の科学雑誌『Bulletin of the American Meteorological Society』(8月号)に掲載される予定です。

「京」にて現実大気の世界最大規模アンサンブルデータ同化に成功 -天気予報シミュレーションの精度向上へ-

2015年11月10日

アンサンブルデータ同化による対流圏界面付近での水蒸気量の相関マップ

アンサンブルデータ同化による対流圏界面付近での水蒸気量の相関マップ
11月8日午前9時(日本時間)。暖色系は正の相関、寒色系は負の相関を示す。 (a)80個のアンサンブルを使った場合、(b)10,240個のアンサンブルを使った場合、(c)80個のアンサンブルを使って観測の影響範囲を半径1,260 kmに限定した場合。 (c)と比べて(b)の相関パターンが数千kmに及ぶことが分かる。

理化学研究所(理研)計算科学研究機構データ同化研究チームの三好建正チームリーダーらの研究チームは、天気予報シミュレーションの高精度化を目指し、 スーパーコンピュータ「京」を使って、現実大気で世界最大規模となる10,240個の「全球大気アンサンブルデータ同化」に成功しました。

これにより、数千kmに及ぶ遠方の観測データを活用して天気予報の精度を大幅に改善できる可能性が明らかになりました。 2014年7月23日に発表したプレスリリース「『京』を使い世界最大規模の全球大気アンサンブルデータ同化に成功 -天気予報シミュレーションの高精度化に貢献-」では、 通常は100個程度に限られるアンサンブルを、10,240個に飛躍的に向上させることに成功したものの、疑似観測データを使ったシミュレーション実験によるものでした。

今回、現実大気の観測データと解像度112kmの全球大気モデルNICAMを使って、10,240個のアンサンブルデータ同化に成功しました。 その結果、実際の天気予報シミュレーションにおいて数千kmに及ぶ遠方の観測データを活用できる可能性があることが分かりました。 全球降水観測GPMによる衛星観測データなどさまざまな観測データをより効果的に活用して天気予報の改善に役立てられる可能性があります。

「京」を使い世界最大規模の全球大気アンサンブルデータ同化に成功 -天気予報シミュレーションの高精度化に貢献-

2014年7月23日

アンサンブルデータ同化による18日目の水蒸気量の相関マップ

アンサンブルデータ同化による18日目の水蒸気量の相関マップ。
黄色い星の水蒸気量に対する各地点の水蒸気量の相関係数を色で示している。
上:100個のアンサンブルを使った場合。
中:上図に局所化関数を適用した場合。
下:10,240個のアンサンブルを使った場合。

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、天気予報シミュレーションの高精度化を目指し、スーパーコンピュータ「京」を使って、10,240個のアンサンブルで3週間分という世界最大規模の「全球大気のアンサンブルデータ同化」 に成功しました。 必要とされる計算量は、これまでの100個程度のアンサンブルを使った場合に比べて100万倍という大規模なものになります。 これは、理研計算科学研究機構(平尾公彦機構長)データ同化研究チームの三好建正チームリーダーと、近藤圭一特別研究員、および大規模並列数値計算技術研究チームの 今村俊幸チームリーダーの研究グループによる成果です。

スーパーコンピュータを使った天気予報を行う方法の1つに「アンサンブル予報」があります。 アンサンブル予報は、風や気温などの時間変化を物理学の 法則に基づきコンピュータで計算して将来の大気の状態を予測するシミュレーションを、並行して複数実行し、同等に確からしい「パラレルワールド(並行世界)」を作ります。 この平均やばらつきから、確率的な天気予報を行います。

「アンサンブルデータ同化」は、アンサンブル予報で作られたパラレルワールドに実測データを加え、すべてのパラレルワールドを誤差の範囲内に制御します。 これまでのアンサンブルデータ同化では、100個程度以下のアンサンブル(パラレルワールドの数)を用いていましたが、今回、これを世界最大規模の 10,240個に増やし、 アンサンブルデータ同化の計算を約8倍高速化、理論ピーク性能比44%超という極めて高い実行効率を達成することで、全球大気の アンサンブルデータ同化を3週間分実行することに成功しました。 これまでは観測の影響を2,000~3,000 kmに限定する必要がありましたが、今回の成果により、例えば日本から1万km遠方の観測データが、 瞬時に日本の大気状態の推定精度を向上する可能性が明らかとなり、天気予報シミュレーションの改善に貢献することが期待されます。

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E-mail: da-team-desk(please remove here)@ml.riken.jp

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〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町 7-1-26
国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター データ同化研究チーム

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